羽を癒してくれた君へ
ぼくはすずめ
羽が傷んでどうしようもなくて
小さな庭のある家の屋根にとまる
そこには一本の木があって青い葉が茂り、白い花が咲いていた
花が風に揺れるのをぼくはジッと見ていた
羽の傷はふしぎと癒され
以来、ぼくはこの屋根からその木を眺めるようになった
ある日、ぼくは花の香りをかいでみたくなった
ただそれだけ
ただそれだけでいいんだ
そしたらぼくはまた屋根に戻るんだ
ぼくはハチドリが蜜を吸うみたいにして
枝に傷をつけないように香りをかいでみた
そのとき、白い花がぼくに訊ねた
「すずめさん、あなたはどこからきたの?」
「ぼ、ぼくは向こうのほうからキマシタ、さようなら」
あわててそこから飛び立った
ぼくは“向こうのほうからきた”のだけど
どんな道を飛んできたか話せなかった、話したくなかった
きみに嫌われたくなかった
けれど次の日も、またその次の日も
ぼくは花の香りが忘れられなくて出かけていった
遠くから花を見ていると
花は泣きながら散りはじめた
羽が癒されればいいと最初は思ってた
ごめんね
君にほんとうを話せぬままにいる
ぼくがそれを話すとき
もう二度とあの小さな庭には
訪れられなくなるような気がして
今日もふるえているんだ
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