連れ去りにご用心
よく、自宅からそう離れていない場所からの連れ去り事件がある。
かく言う私も、つい3日前にそれらしいことに見舞われた。
とはいっても体には指一本触れられてはいないので、限りなく未遂なのだが。
「連れ去り未遂事件?!の顛末」
台風の影響で強めの風が吹く夜更け、23時過ぎコンビニへ買出しに行った。
黒猫が前方を横切る。猫の入った家の敷地を見たが、どこにもいないので首をかしげた。
買い物を終えて、もと来た道をひきかえす。
いつもならこの時間でもパラパラと駅から帰宅する人影があるのだが、天候のためか前も後ろも歩いていない。
ゆるく「くの字」に折れた道の、ちょうど折れ目を過ぎると、さきほどは停まっていなかった白の大型のワゴン車が、歩道ぎりぎりに停車していた。
気にせず歩みを進めると、ワゴンから男が降りてきた。
街頭に照らされはっきりと顔が見える。20才くらい、身長も180cmはあるだろう細身の美形。ラッパーのようなダボダボの膝丈ズボンに白いキャップをかぶっていた。
私は不振に思いつつも、美形というその外見から大きく油断した。
民家のブロック塀とワゴンに挟まれた1m程度の歩道に立ちはだかる男。いぶかしげにみる私。
先へ進まれないように男は手を広げた。緊迫が一瞬にして自分をつつむ。
が、男と私はまだ5mは離れている。私は車と塀に挟まれた歩道を避け、冷静に道路の向こうへ斜めに横断した。
すると男も手を広げ、私をつかむ準備に入った。私は威嚇して相手を睨んだ。
走り出せばあわてた相手はすぐに私を羽交い絞めにするだろう。
その前に自分のするべきは、「わたしがおばさんであることを認識させる」ことだ。
もちろん指が触れた瞬間に「悲鳴をあげる」である。
瞬時にそういう指令が脳内で下された。
自分でいうのもなんだが、背格好から一見若く見えるのだ。夜道ならなお更のこと。
そして連れ去りの実行犯になるであろう美形の男は、両腕を広げながら近づいて私とにらめっこ。
私はさらに眉をしかめて凝視した。内心バクバクで一か八かの賭けだった。
心の中で(おばさんなんだよ!おばさんなんだよ!おばさんなんだよ!)と繰り返す。
男はしげしげと私を見て、少し見つめあう格好になった。私はさらに眉をしかめる。
ターゲットにするには年がいっていることに気が付いたようだ。
殺気みたいなものが、美形のこの男には欠けていることをどこかで感じていた私だからこそ、こんな賭けをしたのだ。
かつ、この男が連れ去りをしなければならないほど女性に困っているとか、そういう性癖にも見えず、グループの目上の命令でやっているんじゃないかという判断を瞬時にしたためだった。
捕まえるのをやめた瞬間、私は足早に自宅方向の信号を渡った。あえて振り返ることはせず、ななめ後ろに全神経を集中させ、追ってこないかどうかの確認をしながら、「おばさんは動揺していません!」を装った。
それからまもなく、警察へ通報した。別の場所でまた物色する可能性があるからだ。
パトロールをお願いするくらいの気持ちで通報したのだが、直接話を聴きたいと言われ、遅い時間だったが、現場で再現してみせたり特徴など事細かに説明することとなった。
夜道をひとりで歩かないこと、危ないと思ったら大声を上げれば、みんな窓をあけるからと注意されたが、すぐに窓をあける人はそうはいないことも知っているのだ。
むかーしそういう経験をしているのだから。誰ひとりとして開けなかったのだ。
そのときは断末魔の悲鳴をあげ、自力でなんとか回避したのだ。
こういうことにはなるべく関わりたくないものだけれど、痴漢から何から、若い頃たくさん狙われた経験があるから、ある程度冷静に対処できるようになった。
そして今悔やまれるのは、車のナンバーを見る余裕がなかったことだ。
朝、黒猫が前方を横切るといいことがあると聞いたことがある。
あの晩、黒猫が横切ったのは不吉なことを暗示していたのかもしれない。
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
この記事へのコメントは終了しました。
コメント