さて二日目、目指すは八つ墓村(笑)
物語のモデルになった実際の村落(津山)ではなく、野村芳太郎 監督映画の撮影場所。
「吹屋ふるさと村」、ベンガラ色の家並みが特徴の地域にあるという。
倉敷駅から伯備線で30分、最寄り駅の備中高梁駅に到着したが、バスの時間までにまだ1時間半ある。
それならばと備中松山城へ。タクシーの運転手さんが道中いろいろガイドしてくれた。
寅さんのヒロシの父(志村喬)の家として撮影された武家屋敷などもあった。
途中でタクシーを降り、息を切らして山の頂上の天守閣へ登った。
城主はほとんどこの天守閣へあがることはなく、山裾の屋敷で暮らしていたらしい。
バスの発車時刻がせまり、駅に戻っていざ吹屋ふるさと村へ。
この田舎の駅からさらに50分、バスに揺られて山奥へ進む。
横溝映画の中でもいちばん象徴的な、「八つ墓村」の多治見家、あの高台に立つ、石垣のあるお屋敷をこの目で見る日がやってきた。
岡山へ旅立った日から、八つ墓村の映画音楽が思い出せなくなっていた。盛り上がるためにも、到着するまでにはなんとか思い出したいところ。
映画の中、屋敷前の坂の途中で、“ショーケンと小川真由美の到着を待つ山本陽子の姿”が焼きついていて、その音楽を脳内で流しながら、迫力の多治見家を生で見たかったのだ。
多治見家は「広兼邸(ひろかねてい)」と言って、岡山県高梁市の保存建造物だそう。
1時間近くバスにゆられて到着した吹屋ふるさと村は、5件ほどしか店が開いておらず(そのうちふたつは郵便局と郷土館)、観光客も2~3組しかいなくて穴場すぎることに感動。
ベンガラ色の町並みに見とれながら、帰りのバスを確認すると、15時40分が最終バスであった。
早すぎる。
今日一日、この地を満喫しようと思っていたのに。
駅からの始発のバスが10時40分。12時近くに到着して、復路の最終バスまでに3時間半しかないなんて。。
村にたった2件しかない定食屋で腹ごしらえして、もう12時30分をまわっている。
定食屋でもらった「ふるさと村地図」を広げると、ベンガラの家並みの通りを中心に、端のほうに広兼邸が記されている。うん、歩いてもわけない距離だ。
(…ここで安心してしまったのがいけなかった)
まずは吹屋小学校を見学。圧巻の明治の木造小学校。おじさんに話しかけられたりする。
今年の3月末まで、現役だったらしい。
ゆっくり、のんびり時間を過ごす。
(このときの自分に言いたい。“先を急げ”と)
地図を見ながら起伏のあるだだっ広い道を歩く。地図上で今歩いてきたベンガラ通りの縮尺からすると、広兼邸まであと15分くらいか。
それから20分くらい歩いただろうか、地図に疑問を持ち始めながら、笹畝鉱山入り口があるので、せっかくだから入る。
(このときの自分に言いたい。“だから先を急げ”と)
鉱山から出て、受付のおじさんに広兼邸への道を確認すると、
「歩いて行くの?いやーあと30分はかかるよ」
「…………」
「…………」
「…………」
どうやら、手にしていた地図は、広兼邸までの道をかなり省略して描いていたようだ。
距離も時間も何も記されてはいなかった。
早すぎる最終バスまでの残り時間は?
八つ墓村のため、多治見家のために岡山にきたんじゃないか!
ここで引き返してたまるか。
このときすでに時刻は13時40分をまわっていた。
タクシーなんてない、さらにひたすら歩くこと30分。高台に立つ感動の多治見家はついに姿を現した。
つづく
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